Kubernetesスケーリングを考えるとき、「一体何台まで管理できるのか」という疑問が浮かびます。実際には、2018年に深層学習の研究環境で、2,500ノードを超えるKubernetesクラスタを運用した事例が公開されています。
ここでいうノードとは、Kubernetesが管理する物理サーバーや仮想マシンのことです。つまり、この事例では2,500台以上のコンピューターを、ひとつのクラスタとしてまとめて扱っていました。
ただし、Kubernetesを導入してノードを増やせば、すぐに大規模環境が完成するわけではありません。規模が大きくなるほど、APIサーバー、etcd、ネットワーク、DNS、コンテナイメージ配布など、周辺の仕組みも重要になります。
大規模化の本質は、サーバーの台数を増やすことではなく、クラスタ全体のボトルネックを見つけて設計を調整することです。
Kubernetesスケーリングで2,500ノードを実現した背景
この事例では、研究チームが深層学習の実験環境を効率よく準備するためにKubernetesを活用しました。深層学習では、実験内容や利用するデータ、必要なGPUが変わるため、同じ環境を何度も作り直す場面があります。
コンテナは、アプリケーションと実行に必要な設定をひとまとめにする仕組みです。Kubernetesを使えば、そのコンテナを多数のマシンへ配置し、実験が終われば環境を片付ける作業も自動化できます。研究者にとって、インフラの手作業を減らし、実験そのものに集中できる点が大きな利点でした。
チームは2年以上にわたってKubernetesを利用し、クラウド上と物理サーバー上に複数のクラスタを運用しました。最大のクラスタは、AzureのD15v2およびNC24仮想マシンを組み合わせて構築されています。この経験は、理論上の検証ではなく、実際の研究業務で大規模運用を続けた事例として参考になります。
500ノード付近でkubectlがタイムアウトした理由
大規模化の途中で特に印象的だった問題が、500ノードを超えたあたりで発生したkubectlのタイムアウトです。kubectlは、Kubernetesクラスタへ命令を送るコマンドラインツールで、「アプリを起動する」「状態を確認する」といった操作に使います。
kubectlの命令は、通常kube-apiserverというAPIサーバーを経由してクラスタへ伝わります。APIサーバーは、利用者や各コンポーネントからの要求を受け付ける、いわばクラスタの受付窓口です。要求が集中したり、背後の処理が遅れたりすると、操作の完了までに時間がかかります。
研究環境でタイムアウトが頻発すると、実験環境を作るだけでなく、実行結果を確認する作業まで遅くなります。チームは当初、kube-apiserverを動かすKubernetesマスターの台数を増やしました。その結果、問題はいったん解消しましたが、10台以上に増やした段階で、根本原因ではなく症状を抑えているだけではないかと判断しました。
入口を増やすだけでは解決しない大規模化の壁
アクセスを処理するサーバーを増やすと、入口の混雑は緩和できます。しかし、受付の先にあるデータストアやネットワークが遅ければ、全体の性能は改善しません。レジを増やしても、商品の搬入口や会計システムが詰まっていれば、店全体の行列が短くならないのと同じです。
Kubernetesでは、クラスタの状態を管理するためにetcdを利用します。etcdは、ノードやPod、サービスなどの情報を保存する分散データストアです。小規模な環境では意識しにくい存在ですが、ノード数が増えると読み書きの量、接続数、データサイズ、障害からの復旧時間が大きな課題になります。
そのため、マスターやAPIサーバーを増やす前に、どの処理が遅いのかを測定することが重要です。APIリクエストの応答時間、etcdの書き込み遅延、ネットワーク帯域、CPUやメモリの使用率を確認すれば、表面的な混雑と本当のボトルネックを切り分けやすくなります。
大規模クラスタで問題になった5つの構成要素
2,500ノード級の環境では、ひとつの部品だけでなく複数の構成要素が影響し合います。記事で取り上げられている主な論点を、初心者にも分かりやすく整理してみましょう。
- etcd:クラスタの状態を保存するデータストアで、遅延や容量が運用に影響します。
- Kubernetesマスター:API要求やスケジューリングを処理する管理側の機能です。
- コンテナイメージ取得:起動時に大量のイメージを取得すると、レジストリやネットワークに負荷が集中します。
- ネットワークとDNS:KubeDNSによる名前解決や通信量が増え、応答遅延につながります。
- ARPキャッシュと実行マシン:同一ネットワーク内の機器情報や、各サーバーのCPU・メモリ・ディスク性能も無視できません。
たとえば、数百個のPodを同時に起動すると、各Podが同じコンテナイメージを取得し、サービス名をDNSで解決しようとします。これらが同じタイミングで発生すれば、アプリケーション自体に問題がなくても、配布元や名前解決の仕組みが先に限界へ達します。
ここで大切なのは、「Kubernetesが壊れた」と一括りにしないことです。APIサーバー、etcd、DNS、ネットワーク、イメージレジストリ、実行ノードを個別に観測し、どの段階で待ち時間が増えているのかを確認しましょう。
500ノードを支える設計と運用の考え方
大規模クラスタの設計では、処理を複数台へ分散する方法と、1台あたりの性能を高める方法を使い分けます。記事では、500ノードを管理するGKEの構成例として、32コアの大きな仮想マシンを1台使う例にも触れられています。これは、単純に管理サーバーの台数を増やすだけが正解ではないことを示しています。
まず、管理系コンポーネントには十分なCPU、メモリ、ディスク性能を割り当てます。特にetcdはデータの読み書きが多いため、安定した低遅延ストレージが重要です。バックアップと復旧手順も事前に確認し、障害が起きたときにクラスタの状態を戻せるようにしておきます。
次に、コンテナイメージの配布を分散させます。各ノードが遠いレジストリへ同時にアクセスするのではなく、キャッシュや地域ごとのミラーを利用すると、起動時の集中負荷を抑えられます。DNSについても、名前解決の回数やキャッシュの状態を監視すると、見落としやすい遅延を発見できます。
さらに、メトリクス、ログ、トレースを組み合わせた監視が欠かせません。メトリクスはCPUや遅延などの数値、ログは発生した出来事、トレースは処理がどこを通ったかを示します。この3つを使うと、「遅い」という現象を、API要求、etcd書き込み、ネットワーク通信などの具体的な原因へ分解できます。
小規模環境にも役立つKubernetesスケーリングの視点
2,500ノードという数字は、個人開発者や小さなチームにとって遠い話に感じるかもしれません。しかし、原因を切り分ける考え方は、数台のクラスタでもそのまま役立ちます。アプリが起動しないとき、Kubernetesだけを疑うのではなく、イメージ取得、DNS、ネットワーク、リソース不足を順番に確認してみましょう。
たとえば、Podが起動しない場合は、まずイベントとログを確認します。イメージを取得できていないのか、CPUやメモリが足りないのか、サービスへ接続できないのかで、取るべき対策は変わります。問題を小さな層に分けて調べると、闇雲な設定変更を避けられます。
また、最初から大規模構成を目指す必要もありません。利用者数やジョブ数の増加を想定し、どの段階でAPIサーバー、etcd、ネットワーク、レジストリが負荷を受けるのかをテストしておくことが大切です。負荷試験とは、実際の利用に近い要求を意図的に発生させ、限界や弱点を確かめる方法です。
Kubernetesスケーリングの教訓は、Kubernetesが何千台でも自動的に管理する魔法の箱ではないということです。一方で、ボトルネックを計測し、構成を分散し、状態管理やネットワークを丁寧に設計すれば、研究用途でも2,500ノード超の運用は現実になります。
今後クラスタを拡大するときは、台数だけを目標にしないようにしましょう。実験やサービスを安定して実行できること、障害から短時間で復旧できること、運用担当者が原因を追跡できることまで含めて、拡張性を評価するのがおすすめです。
出典: Kubernetesを2,500ノードへ拡張した事例













